鼻歌とコーヒー
今週のお題「好きなお店」
家で作業しようとしてもどうも集中できない。
誰もいないので静かな環境ではあるが、すぐソファーやベットに横になって、関係ないことが始まってしまう。
最初は家で作業しているのだが、徐々に集中できなくなってきて、煮詰まってくると、近くのカフェに出かける。
そのカフェはおじさん1人で切り盛りしていて、土日はそれなりに混んでいるが、平日はガラガラだ。どういうカラクリで経営が成り立っているのか気になるレベルにガラガラだ。利用するお客さんの側としては静かなので大変ありがたいが。おじさんの気持ちを考えるといたたまれない気持ちになってしまう。
良くあるおしゃれなカフェではなく、コーヒーがメインのカフェなので、ランチメニューもないし、デザートもない。
他のカフェの場合忙しいお昼時に行ったらドリンク1杯で済ますのは申し訳ないと思ってしまい、お腹が空いていない時には行きづらいのだが、そのカフェであればそもそもメニューがないのでお腹が空いていないお昼時でも、気軽に入ることができる。
店員のおじさんは気さくで陽気でだが、カフェの店長ということもあって普段は静かだ。最低限のサービスを丁寧にしてくれる。その絶妙な距離感が好きだった。
ただ、コーヒーを入れる時に独り言や鼻歌を歌いがちなので、そこだけが気になっていた。
コロナの影響を受け、そのカフェは1ヶ月以上休業していた。
家までの帰り道にお店の前を通りすぎると、シャッターが降りている日々が続いていて、おじさんの悲しそうな顔が思い浮かび、こっちまで悲しくなった。
休業している間は、近くにカフェがないのでファミレスに行っていた。
メニューも充実しているし、そこまで混んでもいなかったので、ファミレスもなかなか良かったが、同時にいつものカフェを恋しく思った。
今日そのカフェが無事再開したので、行ってみた。
お昼を少し過ぎた時間に行き、お店の外から店内を覗くと、お客さんは誰もいなかった。それどころか店員のおじさんも見当たらない。
まさかまだ」営業していないのか?と思い、恐る恐る中に入ってみると、おじさんが奥のテーブルでご飯を食べていた。
私が中に進むと、慌てて手を止めて、出迎えてくれた。久しぶりの再会だったので、言葉には出さなかったが嬉しかった。
ファミレスのマニュアル通りの丁寧な接客も心地よいけれど、こういう人間味のある接客も好きなんだなと思った。
いつも通りコーヒーを注文すると、おじさんは鼻歌を歌いながら、楽しそうにコーヒーを入れ始めた。おじさんの鼻歌なんて聞きたくないかもしれないが、私にとっても、おじさんにとっても日常が戻ってきたような気がして、鼻歌が心地よかった。
この文章を書きながらコーヒーを飲んでいるが、ドリンクバーのコーヒーより美味しく感じるし、何より作業が捗る。
今までであれば、こんな日常に感謝をしなかっただろうが、今はこういう日々を送れることに感謝しているし、何より幸せだ。
そろそろ私が引越しをするかもしれないので、記念にこの文章を描いてみた。
あと何回おじさんの鼻歌を聞けるのだろうか。楽しみだ。